契約書を作るときの注意点④ ー解約できる場合を定めるー
弁護士堀内のブログ2022.0122
これまでのブログでも書いてきたように、契約書の威力が発揮されるのは、契約どおりにいかなかったときです。
契約どおりにいかなかったときにどうするかについては、大きく分ければ、①解約する、②お金を請求する、③解約するしお金の請求もする、のどれかになると思います。もちろん、契約書を作るときの注意点③で書いたように、いろんな思惑があって、契約どおりにいかなかったときにどうするかについては相当込み入った条件を定めることもあります。ただ、一般的には、先の3つのどれかになるのかなと思います。
それで今回は、解約する、ということについて書きたいと思います。
解約に関する条項については、いろんなテンプレートが出回っていて、それらをご覧頂いたら分かるとおり、どんなテンプレートでも、概要としては、次のような感じで書かれています。
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当事者の一方が以下の事由の1つに該当するときには、相手方は本契約を解除することができる。
(1) 本契約に定められた義務に違反したとき
(2) 破産手続、民事再生手続など法的倒産手続を開始したとき
(3) 差押、滞納処分など、財産差押処分がなされたとき
(4) 手形の不渡が2回以上なされたとき
(5) 監督官庁から営業許可取消処分がなされたとき
(6) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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このうち、(2)より下はたいがいどのようなテンプレートでも同じで、特に問題がないことが多いですが、問題は「相手方は本契約を解約することができる」という部分と、(1)です。
まず、「相手方は本契約を解約することができる」という部分ですが、テンプレートによっては「相手方は催告のうえ、本契約を解約することができる」となっているものもあります。「催告のうえ」があるのとないのとでは、どう違うのでしょうか?
「催告」とは、簡単にいえば「きちんとするように催促すること」です。つまり、「催告のうえ」があれば、たとえ相手方が契約で定めた義務を果たしていなくてもすぐには解約できず、「きちんと義務を果たしてください」という催告をしないと解約できないということです。しかも、催告したのに、相手方が後になって「催告してこなかったからまだ解約されないと思っていたのに、突然解約されたのはおかしい」と言ってこないとも限りません。そういったときのために、催告したことが証明できるようになっている必要があります。そのために私は通常、「内容証明郵便」といって、簡易書留ですが送った文章の内容を証明できる形になっている郵便で催告します。
このように「催告のうえ」があると、解約するのにひと手間かかってしまい、タイミングよく解約できないことになりかねません。相手方が行方不明になっている場合だと、催告を相手方に届けること自体一苦労になります。
ですので、私は日頃契約書を作るときには、余程の事情がない限り、「催告のうえ」はナシにしています。
次に(1)ですが、テンプレートによっては「本契約に定められた義務に違反し、かつ相手方に是正を求めたものの是正されなかったとき」とか、「本契約に定められた義務に違反し、かつ当該違反を是正することができないと認められるとき」といったように、相手方による是正ができないことを条件に追加しているものがあります。このような条件があるのとないのとでは、どちらがいいのでしょうか。
根本的な問題ですが、そもそも本契約に定められた義務に違反している相手方が是正すると信用できますか?
是正する方が手っ取り早いかもしれないし、相手方以外にその契約どおりのことをできる人・会社がないこともあると思います。そういうときには、上のような条件を入れてもいいかもしれません。
でも根本的には、別の人・会社にきっちりとした業務をしてほしいと思うのが通常だと思います。そうであれば、わざわざ相手方に是正を求めないと解約できないようにしたり、是正ができないというときしか解約できないようにしたりということは、かえって自分の首をしめるようなものです。
ですので、私は通常、上のような条件はナシにしています。そうしていても、義務違反があったら絶対に解約しなければならないわけではありませんから、「解約できる状況だけれども、●月●日までにきちんとしてくれたら解約しないよ」という交渉ができないというわけではないので、通常は問題が生じません。
以上、解約について書きました。解約は、契約関係から自分を解放する重要な制度です。なるべく自分を契約に縛られないように定めるのがいいのではないかなと思います。